「パーフェクト エンジェル」
これは74年発売のミニー・リパートンのファーストアルバムのタイトル。
このアルバムで非常に興味深いのが、制作した人々を記すクレジット関係である。まず、きわめて珍しくプロデューサーの名前がなく、プロデューサー・クレジットには「スコーブ・プロダクション」と書かれている。
これは一体誰だろうか。
また、裏ジャケットに匿名で「ア・ヴェリー・スペシャル・ファン」からのメッセージが書かれている。
だが、やはりこれを書いた人の名前がない。
さらに、面白いのがエル・トロ・ネグロなる人物。
この人物は、「リーズンズ」でドラムを叩き、多くの曲で、エレクトリック・ピアノを弾き、そして、「アワ・ライヴズ」でお得意のハーモニカまで披露する。
これらのすべての仮名はスティーヴィー・ワンダーその人なのである
スティービー・ワンダーが彼女のために書き下ろした2曲。
「テイク・ア・リトル・トリップ」、「パーフェクト・エンジェル」。
スティービーがミニーを「完璧な天使」と呼んだのだ。
ミニーといえば「ラヴィン・ユー」が有名。
僕は落ち込んだ時ミニーを聞く。
ミニーといえば、乳癌、手術、告白、再発、死という哀しい人生を思い出す人も多いと思う。
「胸を半分取ったからといって、『半分の女』になったわけではない。
実際のところは、もっと強い『スーパー・ウーマン』になったような感じよ」
とても強い女性だと思う。
ステージで彼女は、よくこう言ったものである。
「私が黒人だから、みんなは私がブルーズを歌うべきだと言うの。
でも、私にはブルーに落ち込むようなことは何一つないの。
ブルーズは、悲しい感情で歌わなければならない。
でも、私はハッピーな人間」
あるときはこんなことも、
「私は物事をこう見るタイプの人間なの。
ミニー・リパートンのグラスは、いつも半分からっぽ(ハーフ・エンプティー)ではなく、半分いっぱい、(ハーフ・フル)と」
彼女の十八番ともなっている名セリフだ。
とてもポジティブシンキングな女性である。
彼女の音楽を聴くたび、彼女から元気がもらえるような気になるのである。
これが僕が落ち込んだ時にミニーを聞く理由。
ミニーの死後、それまでの未発表ライブ曲を含めた『ベスト・オブ・ミニー・リパートン』のアルバムを81年11月にリリース。
これが、最後のアルバムとなった。
この中には、彼女のステージにおけるおしゃべりの一部が収録されている。
彼女は曲間でこう観客に語りかける。
「どうもありがとう。人々は、よく輪廻転生のことをいうわね。
聞こえはいいわ。
でも私は前世が何だったかまったく思い起こせない。
皆さんはどうかわかりませんが、私は輪廻転生するという許可証やメッセージはまだ受けていないの。
だから、今この現世で一生懸命、素晴らしい時を過ごそうと思っているの。
みなさんもそうしたほうがいいわ」ミニーは観客に、現世で一生懸命生きることを勧める。
死期を知るが故に、現世の価値を、だれよりも尊いものとして捉えているのだ。
彼女の体は神に召されたが、彼女の魂は、レコード盤にのって、今日も世界中を駆け巡る。
どんなに自分が苦しく、悲しみにくれ、絶望の断崖絶壁に立っていたとしても、決してそれを表に出すことなく、日々全力を尽くして生きてきたミニー・リパートン。